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日誌

2012.04.26 Thursday

踊りなさい、自らを見失わないように


先日(と言ってもしばらく経ちますが…)ふたつの映画を観にゆきました。

ひとつめは、『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』
ピナ・バウシュというひとについて。もしもまだピナ・バウシュを知らないひとがいたら、ネットで検索する前にまずぜひ映画館へ足を運んでほしいと思います。本当は、彼女の創る舞台を、彼女の踊る姿をぜひ「生」で目にしてほしいのですが、残念ながらもう二度とその機会はなくなってしまいました。

ピナ・バウシュはとても偉大なひとですが、私も彼女を知ったのは9年程前のことです。もっと早くに出会っていたらと、未だに悔やまれてなりません。初めてパリで彼女の舞台を観たときの心臓のとまりそうな衝撃と、泣きたいのか悲しみや歓びに叫びたいのか、ただ息をするのも忘れて舞台に釘付けになっていたことを今も忘れません。

日本に帰国後、なんだかいろいろとうまくいかなくて目の前が灰色だったときに、国立劇場で観た「カフェ・ミュラー」と「春の祭典」。細い体に白いドレスを纏い、ただ静かに取り憑かれたようにひたひたと踊るピナそのひとを観たときは、ただただ涙があふれてとまりませんでした。

2009年に仕事でアムスに滞在中、世の中がMJ死亡のニュースであふれ返っていた朝、ふと新聞スタンドで目に飛び込んできたのは、MJの写真が一面を飾るなか一番下にひとつだけピナの写真が一面に載った記事でした。オランダ語は読めないけれど、なんだか不吉な予感がして思わずその新聞を買い、そしてしばらくしてパリの友人からのメールでピナが亡くなったことを知りました。

ピナ・バウシュのクリエイションについて、言葉や映像で伝えるのはとてもとても難しいことだし、無意味のような気さえしていましたが、製作中に亡くなったピナへのオマージュのようでもあるこの映画には、ピナを愛しピナに愛された多くの人々が登場します。作品の終盤で、荒れ地の崖っぷちのようなところを、ヴッパタールのダンサー達が一列になり踊りながら歩くシーン。まるで彼女のお葬式の列のようで、どこかユーモアさえ感じられるピナの振り付けが、泣けてきて淋しくて切なさでいっぱいになりました。この映画の原題は、「dance, dance, otherwise we are lost (踊りなさい、自らを見失わないように)」です。本編でも静かに手をふりスクリーンから姿を消すピナが最後に語る言葉です。

失ってしまうにはあまりに惜しく早過ぎる死でしたし、彼女の踊る姿を二度と観ることができないのは、とても残念で悲しいことですが、映画のなかでひたむきに踊るダンサー達の力強く美しい姿は、ピナは今も彼らの血や肉、骨となって彼らと一緒に踊り続けているのだな…と感じさせるものでした。ほんの一瞬の連なりから創られるダンスは、なんと儚い芸術なのだろうと思いますが、それをたくさんの人々の心の奥に深く刻み込んだピナは本当に偉大なひとだったのだなと思います。

ちょうど今パリの市立劇場では、ヴッパタール舞踊団の公演が行われているそうです。またきっとどこかで彼らの踊るピナの姿を観る機会に恵まれますように。



2012.04.21 Saturday

リトアニアのお祭り



吉祥寺のお店で開催中のリトアニア展にあわせて、今回のリトアニア旅のご報告を。

インフルエンザで虫の息だったベルリンから、どうにかこうにか飛行機に乗ってリトアニアへ。今回の旅の最大の目的はこのリトアニアのお祭りでしたから、絶対に逃すわけにはいきませんでした。ただどうやって空港まで辿り着いたのかあまり記憶にありません…。

経由地ラトビアのリガ空港のベンチでぐったりしていると、「あれ!?しほちゃん?」と見覚えのある声…。rytasの店主のりこちゃんでした。なんかちょっとおもしろがられながらも、「ほら飲みな!」とオレンジジュースを買ってきてくれたやさしいのりこちゃん。飛行機が別々だったため、一度お別れしてヴィリニュスの空港から一緒に宿へ向かいました。(いつも同じ宿仲間なのです)

そして私はみんなの部屋を離れ一人さみしく隔離病棟のような独り部屋へ。このあたりから今度は咳がとまらなくなり…。もはや自分の喉じゃないようでした。

翌日はリネン屋さんとの打ち合わせ。赤い顔にマスク姿で咳をゴホンゴホン連発しながら(かなり迷惑…)オリジナルアイテムの相談を。いつもお世話になっているM氏、いやな顔ひとつせず話を聞いてくれました。いつもは楽しみにしているケーキや外食もガマン(ほとんど食べ物も受けつけられず…)してとっとと寝たのに、お祭り初日は結局咳が悪化し、呼吸をするのも苦しくなってしまい、とうとうリトアニアの病院へ。石造りの古い館、中には大きな医療棚とずらりと並ぶあやしげな色のガラスの薬瓶…というようなのを期待していたのですが、目立たない扉を開けると、中は近代的な受付のカウンターと、清潔な診察室、英語ペラペラのドクターがいました。

いろいろ調べられた後、解剖図を指しながら「あなたの喉から肺の手前までがね、バクテリアに冒されているね。抗生物質を処方するから、温かい飲み物を飲んでゆっくり寝てなさい」と…。せっかくリトアニアの家庭の夕食にもお呼ばれしていたのにしぶしぶ留守番で、ほんとについてないやら情けないやら…。

二日目も午後はほとんどベッドで横になるばかりで、どうなることやら…と思いましたが、最終日になんとかすこし体調も回復し、どうにかこうにか仕入れもすることができました。のりこちゃん、ロムアルダさん、宿のオーナーバルタスやスタッフの子達、一緒の部屋のみんな、とってもお世話になりました。ほんとうにありがとう。そして体調管理の大切さを痛いほど感じました。次からは旅先での健康管理にもっと気をつけて過ごしたいと思います。

今年も素敵なベルやピッチャーがたくさん。ロムアルダさんのブース。ロムアルダさんは「ほらほらママーンよ(お母さん)」と言いながら、お茶やブランデー(あちらの方は風邪くらいほとんどコレで治すようです)を振る舞ってくれ、私のダウンのファスナーを首までキュッキュと閉めて(わりといい歳なんですがすっかり子供扱い…)心配してくださいました。

「あらこれもいいわね…」「ふんふん」とロムアルダさんの作品に夢中のマダム達。
しっかりと頑丈で丁寧な手仕事の木製品を作るガウチャス兄弟。今回はなべしきとコースター、カッティングボードを仕入れました。


かわいいリコーダー演奏を披露して、おこづかい稼ぎをしていた少女達。


いつもよりは少ない量となってしまったのですが、暮らしに役立つ道具やお皿、きゅんとくる丁寧でやさしい手仕事達がたくさん並んでいますので、ぜひお越しください。

2012.04.18 Wednesday

4.15 大江戸骨董市


先日の大江戸骨董市も無事に終了しました。お越しいただいたみなさまありがとうございました。

お天気はよかったのですが、一日中ビル風がぴゅうぴゅう通り抜けていて寒かった…。いつものエリアからはぐっと離れたところにぽつんだったので、常連のお客さんにも「あれ?いたの?」などと言われつつ、お隣のFUCHISOさんと「寒いね寒いね…」と凍えながら励ましあいながらの店番でした。

まだまだ春と言っても日陰や風のある日は寒いですね。頂いた小さなほっかいろのぬくもりが、本当にありがたかった。

次回は5月20日(日)(第一週はお休みです)。コートもえりまきもいらない初夏のさわやかな陽気となりますように。太陽ギラギラ汗じっとりの夏は大の苦手ですが、夕暮れのカフェテラスでアイスコーヒーを飲めるくらいの夏のはじまりは好きです。5月の骨董市を終えたら、またしばらく買付の旅に出ます。次はなかなかハードな旅となりそう。今から体力つけなくては。

***吉祥寺の実店舗『小匙舎+みずたま雑貨店』にて小匙舎の企画展『sneak peek Lithuania のぞいてみよう リトアニア手仕事の世界』開催中です!3月のリトアニアで仕入れてきた心のこもったやさしい手仕事達が並びます。ぜひお越しください。4/18(水)〜5/2(水)迄。***

2012.04.13 Friday

『sneak peek Lithuania のぞいてみよう リトアニア手仕事の世界』



来週からお店で小匙舎の企画展がはじまります。

『sneak peek Lithuania のぞいてみようリトアニアの手仕事』
4月18日(水)〜5月2日(水)火曜休


毎年3月にリトアニアで行われるお祭りに実際に出かけて見つけてきたものを、4月に企画展としてご紹介してきましたが、今年は現地で体調を崩してしまい、仕入れも危ぶまれたリトアニア滞在となりました…。

そんな中なんとか無事に、リトアニアの職人さんが心をこめて作った手仕事たちを仕入れてくることができました。毎年大人気のロムアルダさんの陶製ピッチャーやポットもたくさん並びます。他にもガウチャス兄弟の木製鍋敷きやコースター、バルト伝統の編みモチーフのミニバスケット、さまざまな木を削って作られた木製スプーン、ダリアさんのリトアニア伝統の木製パン皿、ジビリヤさんの小指ほどの小さな小さなピッチャー…。日々の暮らしに取り入れやすい手仕事の雑貨や道具ばかりです。

お祭りのはじめの二日間ほとんどを宿のベッドで過ごすはめになったときは、もうどうなることやら…と天を仰ぎましたが、声の出ない私にあたたかい紅茶やミントのキャンディをくれたり、「これを飲めば一発よ!」とブランデーを飲ませてくれたり(これは私には刺激が強過ぎました…)、本当にリトアニアの人々のやさしさに救われた今回の旅でした。

ひとつひとつ手をかけて作られたものは、表情もひとつひとつ違います。ため息の出るほど繊細な絵付けのピッチャーも、よく見るとそれぞれ違う顔をしています。色もサイズもばらばらなものばかりです。人の手を煩わすことなく、時間もかけず、同じものを大量に作り出すことが可能な時代だからこそ、あらためて物や道具のもつ、そのものだけの価値を感じていただけたらと思います。

今回のDMも、デザイナーいわながさとこさんにお願いしました。このかわいい男の子は、ヴィリニュスの道で誰かの家の小窓をのぞく後ろ姿をこっそり撮ったもの。一緒にいたお母さんもとてもおしゃれでした。

『sneak peek=こっそりのぞくこと』まだまだ知られていないリトアニアの手仕事の世界を、ぜひのぞきにいらしてください。

2012.04.05 Thursday

紡がれた言葉


先日、大好きなお二人のお話を聞きにいってきました。高山なおみさんといしいしんじさん。高山さんのお話は前にも聞きにいったことがあって、でも今回は出版されたばかりの本『押し入れの虫干し』の高山さんの少女時代をふりかえるお話や、いしいさんの『ある一日』の出産の日の出来事についてのお話が多かったせいか、長年のお友達だといういしいさんがとても自然に高山さんの言葉をするする引き出していたのか、けして忘れちゃいけないような大切な言葉をたくさん聞かせていただいた。

いしいさんは文章でしか会ったことのないひとだったけれど、やわらかい関西弁で子供が好きに絵を描くようにくるくると次々に話題をかえながら、でもこちらがわかりやすいようにちゃんと噛み砕いてお話されているのがとても印象的でした。

あの時間あのビルの一室でお二人のお話を聞いていた人達は、きっと皆それぞれ家族のことや幼い頃のこと、大人になるために手放さなくてはと思っていたこと、そんな遠い昔のことについて一生懸命思い出していたように思います。私もそうだった。さすがに私は母のお腹の中にいた頃のことは思い出せなくて、でも福島で住んでいた古い木造平屋の家と小さな庭や台所の仄暗さ、得意になって家族に絵本を読み聞かせしていたことなどを思い出した。あれはきっと幼稚園に入ったくらいのこと。記憶に残っている一番古い記憶はぼんやりとしか出てこなくて、ちょっと悲しかった。

会場の空気がみんなの思い出の温度で、ぐっと熱く上がったような感じで甘酸っぱい匂いがした。

そして、内へ内へ心やからだが向かうことはなんだか情けないいけないことで、外へ社会へ出てゆくことが立派なエラいことで、それが「大人になるということ」なんだよきっと…と、これまで変な風に納得しようとしていたけれど、そうじゃないのかもしれないな…と思った。

「根っこをずっと大切に守ってあげてね、きれいな土にしっかり植わっていようね」と言われたようで、やっぱり人も物も世界も見失わってしまってはいけないのだと、帰り道、お二人にサインしてもらった本(いしいさんはサインと靴の絵を描いてくれた。一緒にいた子が「よかったね、旅人だもんね」と言った)を抱えながら、ぽぉっとした頭でそんなことを思いました。
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